こんにちは、みくろです。
「あなたにとって忘れられないご飯はありますか?」
それはレストランでの豪華なディナーかもしれないし、母の握ってくれたおにぎりかもしれません。
一人一人、体と心に刻まれるご飯の思い出があり、それはそっと背中を支えてくれているものです。
今作は、主人公である宙という一人の少女、そして宙を取り巻く人々の成長を描くほんわかストーリー…ではありません。
ポップな装丁とは裏腹に、内容はどちらかといえば重め。
ただ、読後に不思議と心の底から感じるのは、温かく包まれるような優しさ。
「2023年No.1小説かもしれない」
まだ9ヶ月を残してこの感想を抱くほどの名作をご紹介いたします。
あらすじ
この物語は、あなたの人生を支えてくれる
「小学館」より
宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。
全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。
心に響いた言葉
「例えば、何かしてもらったら『ありがとう』、悪いことをしたら『ごめんなさい』。嬉しいときは笑って、哀しいときは泣く。こういうの、生まれたときから知ってるような気がするだろう?だけどそれは、小さなころからたくさんのひとが愛情をもって繰り返し教えてくれたから、身についたんだ。当たり前に体に染みついたのは、繰り返し教えてくれる存在があったからなんだ」
「ひとっていうのはな、共通の敵がいるときには団結できるもんなんだぞ」
『そのひとの望むしあわせってものが、器として目に見えたらいいのにな。そしたらオレは、花野さんのしあわせの器に一番ぴったりな料理が分かる。いろに大きさ、深さ、そういうものに合わせるべきものが分かる。そして、オレの作れる料理じゃ釣り合わないことも、きっと簡単に受け入れられたんだろうな。ああ、あのひとの器にオレの差し出せるものが合わないのは当たり前だな、ってさ。逆に、あのひとはオレの器に載せる料理を持っていないんだな、って……』
「君の『ごめんなさい』は君が赦してほしくてやってることだよ。相手の気持ちをまったく考えてない。こんなに謝ってるんだから、いいでしょう?赦してくれたっていいでしょう?って相手に赦しを強制してるんだ。それは、暴力でしかないんだよ」
「そう。『とにかく生きる』が最優先。そのあとはいろいろあるだろうけど、『笑って生きる』ができたら上等じゃないかなあとあたしは思ってる。なかなか難しいけどさ、寿命が尽きるまでに叶えりゃいいじゃん?」
ひとはきっと、いつでも変化の一歩を必死に踏んで生きていく。たくさんのものを抱えて、なお。そしてその一歩は自分だけの力じゃない。たくさんの大切なひととの思い出や、繋がりが奇跡のような力となって、手助けしてくれるのだ。
感想
2023年本屋大賞ノミネート作品。
全てのノミネート作品を読んだわけでも、大賞発表が終わったわけでもありません。
ただ、一つ言えるのは、この作品は大賞を取っても取らなくても人々の記憶に残り続ける名作だということ。
率直に言えば、私の得意な雰囲気のストーリーではありませんでした。
今作のテーマはどちらかといえば重く、読み進めながら感情を引っ張られてしまうくらいに。
それでも不思議とページをめくる手が止まらないのは、各話で登場する温かなご飯にそっと心を包み込んでもらえるから。
誰かを想って食事を作り、みんなで食べる。
そんな当たり前が当たり前にある有難さ、そして食事は体だけじゃなく心の栄養補給でもあるということを教えてくれます。
主人公 宙の成長を追っていく物語。
宙の母親になり切れない花野の行動にもやもやしつつも、周りと関わり合い少しずつ花野らしい母親になっていく姿から目が離せない。
そして何より、佐伯。彼の存在がこの物語の全てと言っても過言ではありません。そのくらい、私個人としても大好きな人物。「しあわせの山」の話はすごく腑に落ちましたし、一度彼の作った愛情たっぷりのご飯を食べてみたいなぁと心から思いました。
「二度と読まない。きっと二度と忘れないだろうから」
そんな初めての感覚を抱かせてくれた素晴らしい作品でした。