こんにちは、みくろです。
今回は、早見和真さんの母目線の高校野球小説、「アルプス席の母」をご紹介いたします。
(※少々ネタバレ含みますので、本書を0知識で読みたい方はご注意ください)
はじめに
甲子園。
高校球児が目標とする夢の舞台。
「甲子園に立ちたい」「甲子園で優勝したい」という想いが楔となって、日々の厳しい練習に全力で向き合う彼ら。
しかし、戦っているのは選手たちだけではないことにお気付きでしょうか?
今作は、甲子園を目指す球児を支える母のお話。
母視点からのスポーツ小説はなかなかないのですが、これがまた最高でした。
それでは、早速感想を綴っていこうと思います。
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あらすじ
まったく新しい高校野球小説が、開幕する。
(小学館より)
秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?
補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌! かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する。
心に響いた言葉
「僕もな、こう見えて母子家庭で育ったんや。それを理由に医者になることを諦めかけたこともあったんやけど、あのとき諦めへんで良かったと大人になってから何度も思っとる。いかなることも理由は理由であるけれど、言い訳にはならへんよ。おっちゃんの戯言に聞こえるかもしれへんけど、胸に留めておいてな」
小学館「アルプス席の母」より
「まぁ、大丈夫。結果を出し続ければどうせ使うしかないんやから。俺がチームにとって絶対に必要な選手になってしまえばええだけのことや。そしたら好き嫌いは二の次になる。絶対にチャンスは回ってくる」
小学館「アルプス席の母」より
「内田さんも若い頃に同じ状況に陥ったことがあるそうです。信念を曲げないことと、周囲の声に耳を傾けないことは違うと。頑なになりすぎて、チームを壊してしまったことがあるのだと。その話を聞いたとき、真っ先にみなさんのことを思い浮かべました。いろいろとお話しさせていただきたいと思いました」
小学館「アルプス席の母」より
『ありがとな、お母さん』
「ちょっとやめてよ。何をーーー」
『俺に野球をやらせてくれて。ずっと大変な思いをさせて。それを伝えようと思ってた。本当にありがとう』
小学館「アルプス席の母」より
「野球部は特別って顔をしすぎなんや。先輩たちも、監督も。あんなふうに偉そうにしとったら絶対に応援なんかしてもらえへん。俺たちの代は、とにかく当たり前のことを当たり前にやろうって話しとる。学校ではあまり野球部同士でつるまずに、クラスの連中とも仲良くする。授業もなるべく寝ない。ホントに当たり前のことをするだけなんやけどな。でも、それだけのことでみんな応援してくれるって思うんや」
小学館「アルプス席の母」より
あの甲子園でさえやはりゴールではないのだ。残酷にも、無情にも、あるいは幸運にも・・・・・・。人生はそれからも続いていく。
そして人生がその後も続いていく以上は、やり残してはいけないのだと菜々子は思う。ほんのわずかでも「まだやれる」という思いがあるのなら、自ら道を閉ざしてはいけない。悔いを残してはならない。
小学館「アルプス席の母」より
「自分だけが限界を定めてしまうというのはよくある話です」
小学館「アルプス席の母」より
「『監督さんは、自分はプロで通用すると思いますか?』
「もちろんすぐに通用することは絶対にないが、タイプとしてはプロ向きだと思う」
『どういうところが?』
「大前提としてポジティブなところ。努力を惜しまずに練習に打ち込めるところ。大舞台に強いところ。アマチュア時代にしっかりと挫折を経験しているところ。それと決定的なことがもう一つーーー」
佐伯はそこで言葉を切って、なぜか菜々子の顔を一瞥した。
「自分以外の誰かの思いを背負えるところ。背負うことで、パフォーマンスを向上させられるところかな」
小学館「アルプス席の母」より
「ああ、いや、すみません。僕自身が、僕を無視しない時間が過ごせたらいいなって思っています。ちゃんと自分に期待したいっていうか。高校時代の僕は、勝手に自分はこんなもんだって決めつけて、勝手に諦めてしまっていたので。それを周囲の人たちがケツを叩いてくれて、それがあの甲子園につながったと思ってるので。今度は僕自身が、きちんと僕に期待したいなと思ってます」
小学館「アルプス席の母」より
「アルプス席の母に、いいところを見せてあげたかったんです」
小学館「アルプス席の母」より
感想
高校進学と母の愛
甲子園を目指す。
その為には、自分の実力を磨くことはもちろん、「甲子園を目指せる高校に入学する」ということも重要になってきます。
いわゆる「名門」と呼ばれる高校ですね。
ただ、そこに入学する場合、親元を離れて寮生活を送るケースも少なくありません。
今作の主人公、秋山航太郎がまさにそうでした。
進学が決まった時、母である菜々子は驚きの選択をします。
それは、「航太郎についていく」ということ。
仕事を辞め、航太郎の高校の近くに引っ越し、そこで仕事を探す。
お察しの通り、近くにいたところで、寮生活の航太郎と共に生活できるわけでもないのです。
それでもその選択をしたというのは、「ひとえに母として、少しでも近くで息子の成長を応援したい」という気持ちただ一つだったことが想像できます。
そんな母の愛情を感じられるワンシーンに心が温かくなりました。
保護者の苦悩
野球を頑張る息子を応援するには、保護者同士良い関係性を築くことも少なからず重要になってきます。
しかし、それがまた大変なんですよね。
気が強い人、癖が強い人、おとなしい人…個性が様々な大人たちはなかなかてごわい。
関係がこじれてしまえば、何かしらの形で息子の野球に影響が出てしまう可能性だってあります。
そんな時、どうするのか。
「息子を応援したい」という共通した想いに目を向けるのです。
応援の形はどうあれ、その気持ちに嘘偽りはありませんから。
あまりの理不尽に歯を食いしばる日々もありながら、然るべき時に戦いの声を上げる菜々子の姿にとても勇気をもらえます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
私も学生時代、朝から晩までボールを追いかけて、サッカーに打ち込んでいました。
「サッカーができることは当たり前じゃない。君たちの保護者が一生懸命働いてくれるから、ユニフォームやボールが買える。その他にも、送り迎えをしてくれたり、ご飯を作ってくれたり。全部当たり前じゃないんだ」
少年団のコーチからもらったその言葉は、今でも強烈に記憶に残っています。
支えてくれる人がいる。応援してくれる人がいる。
その有り難さに感謝してプレーができたことは、幸せ以外の何物でありません。
そして支える側になった今、この物語の奥深さとおもしろさがよりリアルになりました。
- 菜々子はどのようにして息子をサポートするのか?
- 航太郎は甲子園に行けるのか?
- 母子の未来に高校野球はどのような影響を与えるのか?
物語に自分を重ね、“努力”と“悔しさ”と“感動”に心を震わせる瞬間がここにあります。
何かに全力で打ち込んだことがある全ての人たちへ。
誰かに支えられたことを知っている全ての人たちへ。
続きは本書にてお楽しみください。
お読みいただきありがとうございました。
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