こんにちは、みくろです。
今回は、辻村深月さんの2023年夏の代表作、「この夏の星を見る」をご紹介いたします。
- “コロナ禍の学生生活”を駆け抜けた現役生
- “爽やかで熱い青春”に涙したい大人
- “天体好きな人”
はじめに
「コロナ禍と学生たちの物語」
COVID-19。通称、新型コロナウイルスが、僕たちの日常を大きく変えた2020年。
「自粛」の言葉に翻弄された日々を駆け抜けた、熱く爽やかな学生たちの姿に心が震える。
それでは、早速感想を綴っていこうと思います。
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あらすじ
この物語は、あなたの宝物になる。亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も今年は開催できないだろうと悩んでいた。真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、「長引け、コロナ」と日々念じている。円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
コロナ禍による休校や緊急事態宣言、これまで誰も経験したことのない事態の中で大人たち以上に複雑な思いを抱える中高生たち。しかしコロナ禍ならではの出会いもあった。リモート会議を駆使して、全国で繋がっていく天文部の生徒たち。スターキャッチコンテストの次に彼らが狙うのは――。
哀しさ、優しさ、あたたかさ。人間の感情のすべてがここにある。
心に響いた言葉
「悲しみとかくやしさに、大きいとか小さいとか、特別とかないよ」
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
それこそが寂しいのだ、と亜紗は思っていた。本当に知りたい、と思うときに、「まだ早い」と言われる。この世界にその仕組みや理由は確かにあるのに、今の自分では理解できないと言われてしまうこと。亜紗が一番寂しくてがっかりするのは、まさにそこなのだ。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
空が「立体」なのだ、と思い知る。星は、夜空に散らばっている模様ではなくて、奥行きのある、大きさも輝きも距離も、それぞれ別のひとつひとつなのだとはっきりわかる。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
しばらくはそれもいい、なんてことはない。ーーーあきらめないでほしい。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
コロナが奪ったのは、収入だけじゃない。日々、当たり前にしてきたはずの生活、日々の営みの勝ちや尊さがどんなものか、円華にもわかり始めている。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
「このままでは夏を迎え撃てません」
「大人はこの一年を、コロナがどうなるかわからない中で、『様子見』の年にしてしまいたいのかな、と、私はそれも悔しいです。今年の私たちだって、何か、『これをやった』と胸を張れるものは必ず作れる。大人たちに見せつけてやりましょう」
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
自分が何気なく言った言葉を覚えていて、大事にしてくれている人がいる、という事実に、大げさでなく、自分がここにいてよいのだと救われる気持ちになる。
わかってくれる人ばかりじゃないけどーーーそれでも、私をわかってくれる人が確かにいる。
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
「絶対に、できてほしい。これ以上、私たちから何も奪わないでって感じ」
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
「失われたって言葉を遣うのがね、私はずっと抵抗があったんです。特に、子どもたちに対して」
「実際に失われたものはあったろうし、奪われたものもある。それはわかる。だけど、彼らの時間がまるごと何もなかったかのように言われるのは心外です。子どもだって大人だって、この一年は一度しかない。きちんと、そこに時間も経験もありました」
「私は、ずっと怒っているんです」
「ISSの観測会をしようって決めたオンライン会議で、うちの亜紗が言いました。コロナの年じゃなかったら、私たちは会うこともなかった。どっちがいいか悪いかなんてわからないねと。私はーーー」
「そんなことを、子どもに選ばせなきゃならなかったことが悔しい。コロナがあったから失われ、でも、コロナがあったから出会えたこともある。どちらがよかったのかなんて葛藤をあの子たちが持たなきゃならないことがもどかしい。本当だったら、経験は経験で、出会いは出会いのまま、何も考えずに飛び込んでいけたはずなのに、そうじゃなかったことが」
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
感想
「密を避けましょう」
「不要な外出は避けましょう」
「マスクを着用しましょう」
ぱっと思い出せる一般的なルールだけでもこれだけある。実際はもっとだ。
それが「学校」という枠組みで考えたらどうだろう。
「給食は会話をせずに食べましょう」
「部活動は自粛しましょう」
考えただけで息が詰まってしまう。
「学校とは、ただ授業を受ける場所ではない」、と僕は考えている。
なんなら、授業を受けるということは目的の一つに過ぎず、「友人や先生と過ごす時間」こそが真の目的なのではないかとすら思う。
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今作は、そんなコロナ禍を生きる学生と先生達が、「スターキャッチコンテスト」と呼ばれる天体観測を行うまでを描いた物語。
物語の中で、特に印象に残った言葉をひとつ紹介しよう。
「失われたって言葉を遣うのがね、私はずっと抵抗があったんです。特に、子どもたちに対して」
「実際に失われたものはあったろうし、奪われたものもある。それはわかる。だけど、彼らの時間がまるごと何もなかったかのように言われるのは心外です。子どもだって大人だって、この一年は一度しかない。きちんと、そこに時間も経験もありました」
KADOKAWA「この夏の星を見る」より
本当にその通り。
コロナ禍であろうがなかろうが、1年は1年。時の流れは変わらない。
それは、”学生時代”という人生の中で限られたわずかな時間もまた同じ。
「コロナだったから仕方ない」
そんな一言で片づけられていいわけがないのだ。
部活動での優勝を、学園祭での成功を、受験での実りを。
一人一人が何かを目指して積み重ねた日々。
それが挑戦すらさせてもらえずに、突然終わりの鐘を告げられたら。
行き場のない想いは、何をどうしたって消えることなんてない。
ただ、だからといって全てをなかったことになんてしない。
失われた事実は確かにある。ただ、それと同時に得られたことがあったのも事実。
- オンラインだったから繋がることができた仲間
- 当たり前の日常の大切さ
本書の登場人物たちが駆け回る姿は、青春の輝きはいつ何時も変わらないことを証明してくれる。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
人生は前にしか進めません。
失ったものを数えるよりも、今持っているものを数えた方が楽しいじゃないですか。
過去から学び、未来に活かす。
その繰り返しでしか、僕たちは成長することはできないんです。
コロナ禍の大変さと青春の爽やかな心象風景を同時に描き出したからこそ、圧倒的にポジティブな読後感に満たされます。
この夏一番の名作を、ぜひご体感ください。
お読みいただきありがとうございました^^
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