こんにちは、みくろです。
今回は、ジャーナリストの島沢優子さんが執筆した、「オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉」をご紹介いたします。
はじめに
「サッカーは人生の縮図だ」
数々の名言を残した名将、イビチャ=オシム。彼の歯に衣着せぬ、そしてユーモアに富んだ言葉の数々は「オシム語録」と呼ばれ、誰しもが一度は耳にしたことがあるでしょう。
”日本サッカーの日本化”を本気で語り、実現させようとしていた矢先だった。オシムは病に倒れ志半ばで代表監督から退く。そして、2023年5月1日、彼は亡くなった。
ほどなく1年が経ったが、彼の残した言葉は今なお人々の心を震わせ、その大きな足跡を日本のサッカー人たちは追いかけ続けている。そんな「遺産(レガシー)」と呼ぶにふさわしいオシムの金言と、彼の魂を受け継いだ人々の物語がこの一冊に詰まっている。
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心に響いた言葉
「平和が続くとは限らない。人生でも、サッカーでも、思いがけずいろんなことが起きる。けれど、どんな状況でも、サッカーは続けていかなくちゃいけない。試合を途中で投げ出すわけにはいかない。だからこそ、どう対応するかをしっかり準備しなくちゃいけない。考えなくてはいけない」
「だからサッカーは人生と同じなんだ」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「行くなら、絶対本気で行け」
選手が中途半端なスプリントで、上がったセンタリングに「なんとなく入って」(勇人)いくと怒髪天を衝くが如く怒った。
「おまえが本気だからこそ、相手が本気で捕まえに来るだろう?そうやってスペースは生まれるんだぞ」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「サッカー以上に大事なものはたくさんある」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「ここは行くと決めたら行けよ。それは、サッカーも人生も同じだ。成功させるためには躊躇するな」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「今までよりももっと高い要求を、練習のときから選手にするといい。今のチーム力を持続するのではなく、もっと進化するチームを作ることを考えなさい」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「おまえたちの振る舞い、プレーは正しかったと思う。だから、今日負けたけど俺は別に気にしない。どうやって次に向かうかが重要だ。明日からまたやろう。次に勝つ準備をしよう」
結果云々よりも、そのプロセスを評価されると人間は意欲的になる。これは脳科学でも明らかになっている。科学的なエビデンスがあろうがなかろうが、オシムは自身が理想とするサッカーを追い求めたのだろう。
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「リスクを冒して失敗したら、褒めてやるんだ。その代わり、次に同じ失敗をしないようにすることを考えてもらう。そうやって選手は成長する」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「限界に、限界はない。限界を超えれば、次の限界があらわれる」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「そこにトライはあったのか?トライする前にできませんとか、今までこうだったと言う。それは言い訳にもならない」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「汗をかく選手を大事に扱う。それが我々のチームだ」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「スポーツとは、何でしょう。観て楽しむもの?やって楽しむもの?どちらも正解でしょう。しかし、どちらもエレガントな正解とは言えません。スポーツとは、育てるもの」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
「自分で表現するためには、まず自己決定することが習慣化されないとダメなんです。オシムさんはそれを選手に求めていましたよね。だから僕ら指導者は選手に答えを求めるのではなく、反応することが大事だと考えました」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
感想
本当に素晴らしかった。
この作品は彼を元日本代表監督としてではなく、イビチャ=オシムというサッカー愛に溢れた一人の人物として、描き出している。
ほんの一部に過ぎないのかもしれないが、こうして色眼鏡をかけずに彼の人間らしい一面を知ることが出来たことは、いちサッカー人としてとても嬉しく思う。
早速だが、内容に少しだけ触れていこう。
本書の全11章、11人のストーリーは、全く異なるもの。
しかし、ただ一つ共通しているものがある。それはなにか?
「オシムは、出会った全ての人を平等に大切にする」
才能に満ち溢れた選手も、陰からチームを支えたスタッフも、チームを離れた選手も含め、全てだ。
だからこそ、彼の理不尽とも取れる要望は、信頼や愛情に姿を変える。
最初は戸惑うかもしれないが、こんなボスがいたら本当の意味で仕事が楽しいと思えるのかもしれない。
また、本書で強烈なインパクトを受けたエピソードを一つだけ紹介しよう。
「オグラ、ちょっと黙れ」
眉間にしわを寄せ不機嫌な様子で言われた。が、小倉は特に間違った指示は出していないので「いや、選手に指示を出しているだけです」と返答した。
「おまえが指示を出したら、その選手が下手になる」
まさかの「指示禁止令」である。一体どういうことなのだ。そこはいったん黙ったものの、試合後にオシムに理由を尋ねると丁寧に答えてくれた。
「ミスをする選手には大きく分けて2通りある。選択肢がいっぱいありすぎて判断が遅れてミスをする選手と、選択肢がなくて判断が遅くなってミスをするやつだ。おまえ、その選手がどちらになるかとか、その違いがわかるか?」
小倉は、「いや、わかりません。わからないです」首を横に振るしかない。
「おまえの指示は全部同じなんだよ。選手がミスしたとき、理由は概ね三つある。状況を最後ギリギリまで見極めていたからプレーが遅れて(ミスが)起きたのか、選択肢がひとつしかなくてその判断を潰されたのか。三つめは、選択肢がたくさんあったから判断が遅れたのか。そんなふうに異なるミスをした選手を、おまえは同じように扱っている」
納得するしかなかった。
「おまえはもう指示を出すな。創造性のあるやつが下手になる」
その理由を聞いて理解できた小倉は「どうすればいいのか」と考え始め、その様子を見て取ったオシムは珍しく、”アドバイス”をくれた。
「そういう選手には、まず何が見えていたかを聞いてやることだ。そこで、選手はこれこれを見たと答えるだろう。ああ、そうかと受け止めてやればいい。次に同じミスをしないためには判断を素早くすることだ。プレーを早くひとつに絞らなくてはいけない設定をしたトレーニングをすればいい」
「言わば、選手のアイディアを潰してしまうわけだ。そういう指導はダメだ。その選手がどういう特徴を持ってるか、どういう才能を持ってるかっていうのをもっと見ろ。プロのコーチだったら、それぐらいのことをしなくてはいけない」
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
もうね、読みながら首を縦に振るしかなかった。本当にその通りなんだ。
「自分が持っている答えを教えるのではなく、相手が持っている答えを導き出してあげること」
「万人に通用するアドバイスだけじゃなく、しっかりと個人と向き合い、一人一人に最も適した道筋を示すこと」
これが指導者のあるべき姿。
よくよく考えてみたら、指導という字は「指で導く」と書く。これはまさに、そういうことなのだろう。教えるのではなく、導く。考えさせるんだ。示した道を一歩一歩踏みしめてもらいながらね。
本当に書きたいことは山ほどあるのだが、そうなるとぐだぐだと書き綴ってしまうのが私の悪い癖。
なので、そろそろ締めに入ろうと思う。
本書終盤には、島沢さんのこんな言葉が綴られていた。
オシムさんと会ったこともないのに? と揶揄されるかもと委縮する気持ちを奮い起こして書いた。出版を引き受けてくださった竹書房、編集者の面々にはこの場を借りて御礼を申し上げる。
そして、いつも支えてくれる家族にも、夫は「この本は君にしか書けない」といつもの決め言葉で勇気を与えてくれた。
竹書房「オシムの遺産(レガシー) 彼らに授けたもうひとつの言葉 」より
本当に驚いた。
実は、某SNSで本書のレビューを検索した時、まさに島沢さんの懸念していたことが起こっていたのだ。
詳細は差し控えさせていただくが、まさにこの通りで。
しかし、そういった声があがるであろうことも事前に予測し、覚悟した上で彼女はペンを取ったのだろう。
これだけの作品を作ってくださった島沢さんには、もう感謝しかない。本当にありがとうございます。
島沢さんの旦那様の決め言葉、私も心底そう思います。
「この本は島沢さんにしか書けなかった」
オシム本人に会ったことがないからなんだというのだろう。
ページをめくるたびにひしひしと伝わってくる熱さは情熱と呼ぶにふさわしく、きっと本書をこの世に送り出すために、莫大な時間をかけてオシムの教え子たちへの取材を行った賜物だ。
逆境すらも、彼女にとっては本書の魅力を引き出すスパイスでしかなかったのかもしれない。
まとめ
さて、とりあえずのレビューはここまで。
今回ご紹介したエピソードは、ほんの一部分。
本書には、この何倍ものメッセージが込められています。
世のサッカー好きから、読書好き、前を向いて歩いていきたい人まで。
どんな方にも楽しめ、心の琴線を震わせる言葉を与えてくれるこの作品を、ぜひみなさんご一読ください。
読んで損はさせないことを、私がお約束いたします。
それでは、2周目行ってきます。