あらすじ
妻も娘も顧みず、四十歳で出会ったヒルクライムに全てを賭ける男。マラソンを捨て目標を失い、大学も中退した青年。そして二人を取り巻く坂馬鹿たち。彼らは坂の頂点を目指しひたすら登り続ける。「なぜ坂に登るのか?」それはロード乗りが必ず一度は直面する問いだ。なぜ重力の法則に逆らい、息も止まるほどの苦しさに耐えなければならないのか。長い坂を登りつめた果てに、待つものは何なのか。自転車で山に登る面白さに取り憑かれた作家が、自らの体験を元に描き尽くした日本初の本格ヒルクライム小説。坂に魅せられた者たちの、魂と肉体の再生の物語。
(「BOOK」データベースより)
印象に残った言葉
「わかったよ。俺がアホだった。陸上でさんざん味わってきたことをぱっくりと忘れていた。下を見ちゃいけねえ。見ると、低いレベルで満足してしまう。本当に頭が悪いぜ。自転車をスポーツだと思っていなかった」
いま登るのは、無になるためだ。
あらゆる葛藤、心労、軋轢から解放され、ある種の高揚感が、精神を満たす。肉体はつらい。筋肉がきしむ。関節が悲鳴をあげる。だが、その苦痛は、不思議に甘美だ。無がもたらす最高の快感だ。
「会社でも、よく訊かれるんだ」
「自転車で山に登って、何が楽しいんだ?って」
「もちろん、説明はできない。アルピニストが似たような質問を受けて困ることがあるらしいが、それと同じだ。ただ苦しいだけじゃない。登った先には、たしかに何かがある。それが何かを具体的に説明するのは無理だけど、登ってみれば、わかる。絶対にわかってもらえる。そう言ってやりたい。言ってやりたいが、言わない」
感想
ロードレース、その中でもヒルクライムを題材にした自転車小説。
読んでみた結論から先に言います。
“息切れするまで全力で自転車に乗りたい…!!!“
読後に即自転車乗って、近場の登坂を激走しました(笑)
というか、読んでる途中で我慢できなくなり、何度か走りました(笑)
そもそも “ロードレース” とはなにか。
簡単に言いますと
軽量化された高速走行可能な自転車を ”ロードバイク(ロードレーサー)” と呼び、
それに乗って目的地までの競争を繰り広げるスポーツ
のことですね。
ここ数年話題になっていた少年漫画、「弱虫ペダル」がまさにそうです。
弱虫ペダルのように、チーム競技のレースもあれば、個人で参加するレースもあります。
もちろん、チーム競技の中でも個人賞はありますけどね(笑)
話を戻しまして(笑)
ロードレースは先述した通りの自転車競技です。
平均時速30kmがアマチュアとプロの壁と言われていますが
プロになると平均時速が約40km、最高時速70kmを超えるともいわれています。
私もミニベロロードに乗っていますが、その速度は完全にやばいです(笑)
この作品は、“ヒルクライム”と呼ばれる登り坂でのレースにスポットを当てています。
ロードバイクに乗る人・乗らない人問わず、坂を自転車で登ることにどんなイメージが
あるでしょうか?
…そうですね。
「めっっっっっっっちゃしんどい!!!!!!!!!!!!!!!」
です(笑)
でも、ヒルクライムはその登りの魅力にとりつかれた人たちの戦場なんです!
上段で先に引用させて頂いた
「会社でも、よく訊かれるんだ」
「自転車で山に登って、何が楽しいんだ?って」
「もちろん、説明はできない。アルピニストが似たような質問を受けて困ることがあるらしいが、それと同じだ。ただ苦しいだけじゃない。登った先には、たしかに何かがある。それが何かを具体的に説明するのは無理だけど、登ってみれば、わかる。絶対にわかってもらえる。そう言ってやりたい。言ってやりたいが、言わない」
こちらの文が全てを表しています。
「まず登ってみろ」
どう考えてもしんどさしか思いつかないですが、
登っている人間にしか見えない世界がその先にあるようです。
私もそこまで長い、険しい坂は登ったことがないですが、
そこまで言われてしまうと登るしかないじゃないですか(笑)
坂探すところからスタートします(笑)
とにもかくにも
この作品の熱さはすごいです!
苦しさの先にしか見えない甘美な瞬間に魅せられた人たち。
不思議な縁で紡がれていく人間関係と、レースでの激闘。
目標ややりがいを求め、今熱くなれる何かを探している方に
ぜひ一度読んでいただきたい名作です!