こんにちは、みくろです。
今回は、阿部暁子先生の「カフネ」(★第8回未来屋小説大賞の受賞作)をご紹介いたします。
- “毎日頑張り続けて、心がいっぱいいっぱいになりそうな人”
- “食べることが何より大好きな人”
- “出会ったことのない愛のカタチに涙したい人”
はじめに
「大好きです」
人は言葉を交わすことで、相手に自分の気持ちを届ける。
ただ、気持ちを届ける方法は一つじゃない。
不器用な主人公2人が織りなす、優しいだけじゃない愛情の物語。
“人生で初めて出会う愛のカタチ“に涙が止まりません。
さぁ、感想を綴って参りましょう。
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あらすじ
一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。
やさしくも、せつない。この物語は、心にそっと寄り添ってくれる。
法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。
講談社より
心に響いた言葉
「信用はとり戻せるけど、健康はそうはいかないでしょう。こういう時に間に入ってコーディネートしてくれる人がいるから大丈夫ですよ」
講談社「カフネ」より
「性別は関係ないと思いますよ。うまくやってる女性は、女だからできるわけじゃなく、試行錯誤して考察して実践をくり返すうちにうまくできるようになっただけです。男性も同じことをすれば、同じようにできるはずです」
講談社「カフネ」より
社名の『カフネ』はポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」を表すらしい。
講談社「カフネ」より
「お腹がすいていることと、寝起きする場所でくつろげないことは、だめです。子供も大人も関係なく、どんな人にとっても」
講談社「カフネ」より
「ともかく家事に限っていえば、お金で解決できる余裕があるなら、チケットで家事代行を体験して検討してほしい。それでもし家事代行を頼むなら、カフネを使ってほしい。そういう下心もちゃんとある活動なんです。そういう善意百パーセントじゃないところが好きです。善意って油みたいなもので、使い方と量を間違えると、相手を逆に滅入らせてしまうから」
講談社「カフネ」より
もう何ヵ月も、いや何年も、自分に価値を感じられずに生きてきた。もう自分は誰にも愛されず、必要ともされないと思っていた。
講談社「カフネ」より
けれど今、誰かの役に立つことができた。たったの二時間、それもたいしたことではない。それでも今、ありがとうと言ってもらえた。
今、私はあの人を助けたのではなくて、助けてもらったのだ。
「未来は暗いかもしれないけど、卵と牛乳と砂糖は、よっぽどのことがない限り世界から消えることはない。あなたは、あなたとお母さんのプリンを、自分の力でいつだって作れる」
講談社「カフネ」より
「生きていくためには、たまに悪魔に魂を売る必要もあるわよ」
講談社「カフネ」より
諦めることは、時として努力を続けるよりも困難だ。
講談社「カフネ」より
「私ね、わかり合えないって切り捨てるのがすごく嫌なの。最終的にはそういう結論に行きつくとしても、それまでに言葉を尽くしてわかり合う努力をすべきだと思う」
講談社「カフネ」より
「わからないよ。家族だって、恋人だって、友達だって、同じ家に住んでたって、セックスしてたって、人間は自分以外の人間のことは何ひとつわかるわけないんだよ。わかったような気がしてもそれはただの思い込みだ」
講談社「カフネ」より
「そういう時あなたが選ぶべきはあなたの心だ」
「あなたの人生も、あなたの命も、あなただけのもので、あなただけが使い道を決められる。たとえ誰が何を言おうとあなたが思うようにしていい」
講談社「カフネ」より
「彼女に何かをしたいんです。彼女が笑ってくれたり、喜んでくれたりするようなことを、したいんです。彼女が私にしてくれたように」
講談社「カフネ」より
「この子にとって何かを作って食べさせてあげることは、『好きだよ』って伝えることなんだなって」
講談社「カフネ」より
私の人生、私の命の使い道は、私だけが決められる。望みがあるなら、ぐずぐずしていてはいけない。人間はいつどうなるかわからないのだから。
講談社「カフネ」より
自分勝手なのだろう、余計なお世話なのだろう、黙って引き下がるのがスマートな大人の対応なのだろう。
講談社「カフネ」より
でも、もういいのだ。自分がだめでみっともなくて情けないことなんて、もう嫌というほど思い知った。今さらそんなことは構いやしない。拒絶されたらそこまでだ。今はただ、思うとおりに走ろう。
彼女に伝えたい。
とても、ありがたかったということを。あなたのしてくれたことが、きっとこれからも私を生かしてくれるんだということを。
自分で過去の自分を救いながら、なんとか生きていくしかないのだ。斗季子が日々の営みに窒息しそうになっている人たちを助けようとしているように、公隆が傷ついた子供たちをすくい上げることを自分の使命としたように。
講談社「カフネ」より
失望と諦めが、愛情を根こそぎ消し去ってくれたなら、いっそどんなに楽なのか。けれど、愛しさはしぶとい雑草のように胸に根付いて、毟られても、毟られても、ほんのわずかな雨さえ降れば、こうして息を吹き返す。
講談社「カフネ」より
胸に白い花が咲くような、あたたかい風が吹き抜けていくような、こんな気持ちを、愛しいというのだろう。
講談社「カフネ」より
「私はこれからもあなたといたい」
講談社「カフネ」より
「愛しいんです。眠ってる娘たちの髪をさわりながら、忙しすぎて心を失くしかけているような人たちが、こんな時間を持てるようにする仕事がしたいと思いました。それで会社を立ち上げた時、社名にしたんです」
講談社「カフネ」より
感想
理解と許容
本書の大きなテーマとなっているのは、「人と人の繋がり」。
それは家族であり、友人であり、見知らぬ他人であり。
ただ、【関係性の深さ ≠ 心の理解度】であることを改めて感じました。
あるシーンで、せつなはこんな言葉を残しています。
「夫婦だからって、その人の百パーセントを知るなんて無理じゃないですか?別々の頭と体を持ってる以上、完璧に理解し合うなんて人間にはできないと思いますよ」
講談社「カフネ」より
本当にこの通りなんです。
私も結婚していますが、パートナーとすれ違いを重ねることなんて日常茶飯事。
それぞれがそれぞれの環境で人生を歩んできたのですから、常識も考え方も正解も、何もかも違っていて当然です。
実の両親や兄弟とだって、百パーセントを知る事なんてできませんからね。
その一方で、薫子はこんな言葉を残しています。
「部外者には何があったかわかりませんし、それだけの理由があったんでしょうけど、それでも黙って出ていくのは、無しだと思います。人間なんてただでさえ行き違うものなんだから、言葉で伝えることまで放棄したら、相手にはもう何ひとつわからない。」
講談社「カフネ」より
読んだ瞬間、あまりの驚きに言葉を失いました。
パートナーと初めて口喧嘩した時、僕が伝えたことがまさにこれだったんですから。
“理解できないこともある。受け入れられないこともある。
ただ、分かり合おうとする努力をすることだけは、可能な限り続けていこう。
妥協したり許容したりするのは、その努力をしてからでも十分遅くないから。”
ってね。
食べることの本質
一般的に、人は一日三度の食事を取ります。
活動のエネルギーを蓄えることが大きな目的かもしれませんが、その本質について薫子はこう話していました。
「だけど食べることって、生きのびるのに必要な栄養を摂るだけのことじゃないでしょう。だからこそあなたは、食べ物の味がわからない春彦のために色んな料理を作ってくれていたんじゃないの?おいしいって思うことが、楽しいって思うことが、うれしいって思うことが、生きていくためにどれだけ大事か、あなたこそよくわかっているんじゃないの」
講談社「カフネ」より
これは、薫子が知っていたというより、せつなの行動に教えてもらったことに近いかもしれません。
食べることは身体に栄養を巡らせるだけではなく、心にも喜びを与えるということ。
本当の意味での健康は、身体と心の両軸が満たされているということ。
人生百年時代とはいえ、命が有限であることに変わりはありません。
それは、食べられる物や量も同様です。
であるならば、
心身を健康に保つことを前提として、「楽しく、美味しく」に全振りした食生活を送る。
これ一択です。
まとめ
いかがでしたか?
正直、どちらかと言えば本書のテーマは重め。
「カフネ」が向かう先は、様々な理由で家事に手が行き届かなくなった人たちの元であり、そこに明るい理由など存在するはずがありません。
でも、薫子とせつなだからこそできる寄り添い方からは目が離せないんです。
皮肉も交えた軽快な掛け合いにくすっと笑わせてもらうことで、深刻さとその中に垣間見える穏やかな光とのバランスがまた絶妙で。
読了後の感想に重さは一切なく、むしろ心がまーるくなったような温かさを感じました。
「できる!いってこい!」
と、“奮い立つことができるように背中を強く押す励まし方”ではなく、
「大丈夫。いっておいで。」
と、“一歩を踏み出せるようにそっと背中を押す励まし方”。
そんな優しさいっぱいの本書。
毎日を頑張っている全ての人に、ぜひ手に取っていただければと思います。
ご一読いただきありがとうございました^^
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